大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 昭和57年(わ)429号 判決

本店の所在地

宮城県気仙沼市字松崎馬場一番地の一

株式会社小野万

(右代表者代表取締役小野寺万三郎)

本籍

宮城県気仙沼市字浪板一一二番地

住居

同市字松崎中瀬三〇六番地

会社役員

小野寺万三郎

昭和四年八月三〇日生

右両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官金子良隆並びに弁護人小野寺信一及び同松倉佳紀出席の上審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人小野寺万三郎を懲役一年二月に、被告人株式会社小野万を罰金二、〇〇〇万円に各処する。

被告人小野寺万三郎に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社小野万(以下、被告会社という。)は、宮城県気仙沼市字松崎馬場一番地の一に本店を置き、海産物加工販売業を営むもの、被告人小野寺万三郎(以下、単に被告人ともいう。)は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人小野寺万三郎は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の仕入の計上及び期末棚卸を除外するなどの不正の方法により所得を秘匿した上

第一  昭和五三年八月一日から昭和五四年七月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が五、六七二万六、〇五九円でこれに対する法人税額が二、一三五万二、一〇〇円であるにもかかわらず、昭和五四年九月二八日、同市古町三丁目四番五号所在の所轄気仙沼税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三、三七六万四、九四九円でこれに対する法人税額が一、二一七万七、三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額九一七万四、八〇〇円を免れ

第二  昭和五四年八月一日から昭和五五年七月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億五、三三二万七、九六〇円でこれに対する法人税額が五、九二二万二、二〇〇円であるにもかかわらず、昭和五五年九月三〇日、前同税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七、五八〇万五、五六二円でこれに対する法人税額が二、八二三万二、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額三、〇九九万一〇〇円を免れ

第三  昭和五五年八月一日から昭和五六年七月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が二億三、四五五万六、四一八円でこれに対する法人税額が九、五四〇万二、五〇〇円であるにもかかわらず、昭和五六年九月三〇日、前同税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一億一、二七四万九、四〇一円でこれに対する法人税額が四、四二七万三、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額五、一一二万九、四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官(昭和五七年七月三〇日付け)に対する供述調書及び大蔵事務官(昭和五六年一二月一五日付け(二)を除く。)に対する各質問てん末書

一  検察官ほか四名作成の合意書面

一  小野寺洋子の検察官に対する各供述調書及び大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  小野寺隆幸及び伊藤孝之の検察官に対する各供述調書

一  古関由美子(昭和五七年四月二二日付け)及び佐々木恵久子作成の各上申書

一  大蔵事務官作成の各調査書、青色申告の承認取消通知書謄本及び領置てん末書

判示第一及び第二の各事実について

一  石山勝信の大蔵事務官に対する質問てん末書

判示第一の事実について

一  被告人の検察官に対する昭和五七年八月九日付け供述調書

一  古関由美子作成の同年四月一六日付け上申書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(3)

一  押収してある法人税確定申告書(昭和五四年九月二八日受付のもの)一綴(昭和五七年押第一三〇号の一)

判示第二の事実について

一  被告人の検察官に対する昭和五七年八月一〇日付け供述調書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(2)

一  押収してある法人税確定申告書(昭和五五年九月三〇日受付のもの)一綴(前同押号の二)

判示第三の事実について

一  被告人の検察官(昭和五七年八月一一日付け)に対する供述調書及び大蔵事務官(昭和五六年一二月一五日付け(二))に対する質問てん末書

一  遠藤正一及び岩瀬光雄の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(1)

一  押収してある法人税確定申告書(昭和五六年九月三〇日受付のもの)一綴(前同押号の三)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告会社が同会社の工場見学に訪れた各市場の担当者及びスーパーマーケットの仕入担当者に対して支払った金員は、旅費、交通費等の実費を負担したものであって、販売促進費であり、交際費に該当しない旨主張する。

しかしながら、右金員は、各市場の担当者及びスーパーマーケットの仕入担当者、すなわち得意先その他事業に関係ある者に対して支払われたものであることはもとより、足代と称して手渡されてはいたものの、旅費等を具体的に計算して金額を決められたものではなく(被告人の第五回公判における供述)、部長クラスの人には一〇万円、課長クラスの人には五万円、その他の人には三万円と決められていたものであり(被告人の右供述、被告人の大蔵事務官に対する昭和五七年四月二三日付け質問てん末書)、工場見学に来る人たちが接待よりは現金をもらったほうが喜ぶことから接待にかえる趣旨で手渡されていたものである(右質問てん末書)から、旅費等の実費を負担したものではなく、接待と同じ目的、すなわち右の者らの歓心を買い、当該市場及びスーパーマーケットとの取引関係の円滑な進行を図ることを目的として支払われたものであって、接待、贈答ないしこれらに類する行為のために支出したものと認めるのが相当である。

したがって、右金員は交際費損金不算入の対象とすべきものであるから、弁護人の右主張は採用しない。

また、弁護人は、被告会社に対する青色申告の承認取消処分は判示各事実の各事業年度の確定申告期限後である昭和五七年五月三一日にされたものであり、その処分の効果を遡及させて各事業年度の逋脱税額を算定するのは失当である旨主張するが、青色申告の承認を受けた法人の代表者がある事業年度において法人税を免れるため逋脱行為をし、その後その事業年度にさかのぼってその承認を取り消された場合におけるその事業年度の逋脱税額は、青色申告の承認がないものとして計算した法人税法七四条一項二号に規定する法人税額から申告にかかる法人税額を差し引いた額であることは、最高裁判所の判例(昭和四九年九月二〇日第二小法廷判決、刑集二八巻六号二九一頁)であり、当裁判所もこれと同じ見解に立つものであるから、弁護人の右主張は採るをえない。

(法令の適用)

一  判示事実該当法令

1  被告人

判示第一及び第二 行為時において昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項、裁判時において右改正後の法人税法一五九条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)

判示第三 右改正後の法人税法一五九条一項

2  被告会社

判示第一及び第二 右改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

判示第三 右改正後の法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

二  刑種の選択

被告人について いずれも懲役刑

三  併合罪の処理

1  被告人 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も重い判示第三の罪の刑に加重する。)

2  被告会社 同法四五条前段、四八条二項

四  刑の執行猶予

被告人について 刑法二五条一項

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 片山俊雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例